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シール・ラベル印刷業界2021年展望

小売・外食で動く食品ラベル事情

食品ラベルの動きとしては、昨年4月に施行された「新食品表示法」の恩恵からか、新版・改版の受注が相次いだため、業績は好調に推移。1~3月機に関しては業界全体として、プラスの影響に動いた印象だ。
4月以降については、中食・内食の需要増加に伴い、一部のコンバーターではフル稼働で生産に当たったとしている。食品スーパーを主要分野とする各社に関しましては、順調な動きを見せたといえる。
オール日本スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会の調査によると、昨年11月20日の時点で総売上高は9224憶2236万円(既存店舗前年同期比3.6%増)とし、既存店は2月以降、9カ月連続増加と発表した。
食品分野のみを切り取ってみると、「生鮮食品」が3277憶5826万円で5.8%伸長。次に「一般食品」が2342憶8277万円で1.9%増、総菜が926憶5498万円で1.6%増となった。
これらのデータだけを見ると、「食品ラベル大幅収益造」と推測されるのだが、実際はそうでもない。その理由がリピート受注の多さ。モノは出るものの、新版や改版ではないため利幅が小さく、業績の影響は軽微であったとしている。
新版・改版減少の背景には、本来、春先に動くはずの新商品企画が軒並み延期もしくは中止の動きが関係している。リモートワークの影響で、商品開発の動きが鈍化。消費者調査もままならないうえ、色校正をはじめ対面でのチェック作業ができないため、パッケージおよびラベル制作が思う様に進まなかったという。
これからの動きを受け、当然、表示ラベルや商品ラベル、販促POPの受注がほぼピタリと止まり、徐々に減少傾向へ。だが今春以降延期の案件が復活するとしており、新版・改版案件の受注を見込んでいる。
食品スーパー以外の食品ラベルでは、テイクアウトやデリバリー弁当容器に貼付する表示ラベルが好調に推移した。取引先の約9割が直販とするコンバーターでは、地域の飲食事業者から依頼を受け急遽、4色刷り1万枚のラベルを10日程度で納品。各飲食業者ではテイクアウトのほか、オリジナル加工食品を発売する動きも活発で、それに絡む商品ラベル需要も増えたという。
食品スーパー好調裏で苦戦したのがコンビニエンスストアだ。日本フランチャイズチェーン協会によると、緊急事態宣言明けの5月20日付の発表で全店・既存店ともに2カ月連続で売上が前年を下回る結果となった。
その背景には、在宅勤務や外出自粛の拡大で来店客数が大幅減になったことが影響している。
だが、移動自粛が緩和された7月以降もコンビニエンスストアの売上高減少の状況は変わっておらず、来店客数についても戻っていない。これについて、某コンバーター社長は「7月1日からスタートした『レジ袋有料化』もひとつの要因では」としており、マイバックを持たない若い男性層や女性層の単価が単純に減ったからではと独自の見解を示した。
現在、小売業各社では「コロナ前の売上に戻らない」と予測している。前述のコンバーター社長の言う通り「レジ袋有料化」も要因であるならば、客足を戻す新たな手法が必要となる。小売・流通業界が今後、どのような方向性に進むのか、注視する必要がありそうだ。

厳しい局面「化粧品・日用品ラベル」

食品ラベルが好調だった一方、厳しい局面に立たされたのが、化粧品・日用品ラベルだ。
その背景には、インバウンド需要の大幅減が関係している。インバウンド需要の増加を見込んでいた大手化粧品メーカーでは、取引先関係者に安定供給を図るため、生産体制の増強を打診。要望どおり、機械の増設を図ったコンバーターもいたそうだがコロナショックによって全ての計画はとん挫したようだ。
さらに外出自粛の影響で、メーキャップ化粧品の購入頻度が減少。総合マーケティングビジネスの富士経済が公表した「国内化粧品市場調査」によると、東日本大震災があった2011年から9年ぶりの縮小を見込んだとしている。

環境配慮基材の開発合戦

だが化粧品・日用品ラベルについては、コロナ前の2019年から業界内で縮小予想とられてきた。国内最大手の花王が発表した「プラスチック製アイキャッチシールの全廃宣言」が理由で、これを受け、コンバーター各社および基材メーカーでは、環境配慮型の基材開発が活発に繰り広げられた。
突破口を開いたのは、大手印字メーカーが開発したセルロース基材を使ったアイキャッチシールだ。それを皮切りに各社からリサイクルPETのフィルム基材や、生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックのフィルム基材など、従来のプラスチックフィルムに代わる新たな代替基材の発表が相次いだ。なかには「ALL紙」で作ったアイキャッチシールを発表するコンバーターも現れるなど、引き続きアイキャッチシールの開発合戦は続くと予想される。
ちなみに先日、ドラッグストアへ足を運ぶと紙を使った新たなPOPツールが店頭に並んでおり、「紙化」に舵を切る予感は否めない。コロナ禍で脱プラスチックの動きにブレーキがかかったと思いきやSDGsおよびESG投資の広がりは今後も加速傾向にある。避けては通れない朝流なだけに、「素材開発=入口」と「後処理=出口」の両方からイノベーションを起こす必要がある。

新生活様式を支えるシール・ラベルの存在

コロナ禍にあって日常のあらゆる場所で「抗ウイルス・抗菌シール」を見かける機会が増えた。インキメーカー各社ではUV硬化型の抗菌ニスを開発。フィルムメーカー各社も抗菌ラミネートフィルムを開発するなど、コロナ特需を狙った動きが活発化した。
シール・ラベル専業メーカーについても、これらの資材を使い自社でオリジナルの抗ウイルス・抗菌シールを製造。エレベーターのボタンや金融機関のタッチパネル、オフィスやマンションなどの共有部分、あらゆるところでシール・ラベルがもつ「貼る」機能の優位性が確認された。
一部、商業印刷や紙器・パッケージ印刷を手掛ける印刷会社から、同様のアイテムが発表されたが、高度なハンドリングが必要なため、ここにきてシール・ラベル専業メーカーの技術力に光が当たった印象だ。「少しでも社会に役立ちたい!」そんな各社の率直な思いが、われわれの日常を支えてくれている。2021年も引き続き、「Withコロナ」「環境配慮」「食品ロス」「省力化」「DX」などなど、話題は持ち切りだ。
シール・ラベル業界においても、他業種による買収や、新規参入、後継者問題など、業界再編のピークを迎えつつある。だがシール・ラベル自体がなくなることは決してない。新たな需要を取り込みに向けた、専業メーカーの動向を引き続き注目したい。

<ひとこと>
新型コロナウイルスの影響で各業界が影響を受ける中、ラベル・シール業界に関しては、使用先のエンドユーザーに左右されます。
食品と大きく括っても、スーパーは好調だが、コンビニエンスストアに関しては苦戦。
また、SDGsの取り組みを進めるということで、環境配慮素材に注目がされています。