
海底でも分解される「透明な板紙」
(画像は公式サイトより引用)
JAMSTEC海洋機能利用部門の磯部紀之副主任研究員らの研究グループが開発に成功した「透明な板紙」。社会問題となっている海ごみ問題の解決と海外の「中身が見えることが購買意欲に繋がる」という消費者調査や飲料メーカーの包材変更の事例から、次世代の汎用包装・梱包資材として「中身が見える透明性」と環境調和性を兼ね備えた材料が求められるとして研究に至ったという。
「手触りと見た目ではプラと見分けがつかないぐらい」というほど、通常の板紙と同一の成分である植物由来のセルロースを原料にしながら、紙の「白い」という弱点をなくす高い透明性を持つ。さらに、通常の板紙では難しいコップやストローの成形も実現し、それらはコーティングなしで液体を保持できる。
このコップを相模湾の深さ757mにおいて分解過程を観察したところ、4ヵ月以内にほぼ消失した実験結果も出たという。確実かつ早いスピードで分解され、万が一海洋に流出しても汚染要因になることがない。
磯部氏は「まだどの素材が環境対策として最適か、答えが決まっていない状況。世界中でアイデア大会が行われているイメージ」とし、今回の素材もさまざまな角度から選定したことを説明。今回は、機構が行っている調査の中で、水温が低く微生物も少ないとされる深海でも分解される「木」に着目。包装資材として普及させるには大量生産ができることも欠かせず、産業として確立している「紙」がその条件に合った。
さらに、この素材製法は、セルロースならばどのようなものも原料として使える点でも優れている。今回の研究では、原料にコットンリンターという綿花を採取した後の種子の表面に残る短い繊維を用いているが、セルロースであえればコピー用紙なども原料にできるため、アップサイクルの実現も可能だ。
海洋生分解素材でありながら、包装材としての実用性にも富むとみられる「透明な板紙」の早期普及・用途拡大が待ち望まれるが、磯部氏によると現時点では製造にかかる時間の長さや生産スケジュール拡大に課題がのこっているという。特に包装容器に使うには、大量生産と生産コスト削減が不可欠だ。今後の実用化には、包装や印刷のノウハウを持つ企業などとの協力や認知度向上が成長のカギとなる。「一緒にベンチスケールから開発していける企業や拡大用途のアイデアがでてきてくれたら」と呼び掛ける。連続製造工程が確立し、板紙をロールで供給できるようになれば、新鮮なジュースの中身が見える透明な‟紙パック”も夢の存在ではなくなりそうだ。
(包装タイムス2025年8月18日より引用)