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物流「標準化」が効率化を促進

まず、ロジスティクスと物流の違いは。
定義はさまざまありますが、JISをもとに説明すると「物流」は、包装、輸送、保管、荷役、流通加工およびそれらに関係する情報の諸機能を総合的に管理する「活動」であるのに対し、「ロジスティクス」は、それら物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売などの物流の領域を統合することで、需要と供給の適正化、顧客満足度向上などを図る経営全般に関わる「戦略」です。

 

ロジスティクスコンセプト2030制作の背景と目的は。

『解説 ロジスティクスコンセプト2030 デジタルコネクトで目指す次の産業と社会』にあるように、第4次産業革命とも呼ばれる昨今の技術革新を活かした持続可能な社会を実現するために、2030年に向かって私たちがこれから目指すべきロジスティックスのすがたを描くことが制作の目的になります。
閉塞しつつある現在から、ユートピアモデルを示し、10年後にそれを実現するための提言を七つ記しました。

包装業界が関わるとすれば提言の一つ「標準化」が一番大きいと考えても良いか。
資源や環境への配慮という面でも包装の改善による効果があると思われますが、前提として標準化の大きなインパクトがあってのことです。
加工食品分野をはじめとして、パレットサイズや外装表示の規格統一が進みつつあります。
無数の商品を取り扱う海外の通販大手は段ボールサイズを数種類しか用意していない、という話を聞いたことがありますが、商品ごとにサイズが異なることに比べて、輸送や保管(特に自動倉庫)も考えればこの方がはるかに効率的です。
このほかにも包装の標準化の効果はさまざま実証されています。
しかし、日本の物流はおもてなし精神を優先してきた文化があり、どちらかと言えばカスタマイズ性の高さに優れ、欧米と比べると標準化の考え方はなじみのないものでしょう。
また、外装の役割も日本では捉え方が異なります。
無事に荷物を運ぶための外装でも小売業や消費者の目線が優先され、小売店に届いた時点で段ボールの取っ手穴が開いていたら、破損扱いになるといった事例もあり、包装で標準化を図るには商習慣の変革や業界の垣根を越えた共通認識が必要と考えます。

具体的にはなぜ標準化が必要なのか。

物流危機に象徴されるように、これまでのビジネスモデルが維持できない状況が到来しています。
産業構造の変化に対応し維持可能な物流を続けるには効率化を避けられません。
現在進行している物流DXでも、標準化されていないとイレギュラーや処理工程の増加が生じやすくなります。
標準化する方が機械にとっても効率的で、高度な技術が必要ありません。
荷物のロボットハンドリングについても同じことが言えます。
また、ロジスティクスコンセプトで描いたように、30年頃にはフィジカルインターネットのコンセプトを活かした物流モデルとそのビジネスモデルが、一部では社会実装されているものと思われます。
ビジネス領域の物流でも、従来の決まった場所に決まった荷物を運ぶ姿が変化し、ある程度ランダムな荷物とドライバーのマッチングが増えていきます。
この時、届け先によって荷降しの仕方や検品の仕方などのルールが異なれば、現場の混乱が生じやすくなるでしょう。
ドライバーら労働者の負担も大きくなる可能性があります。
今なお物流業界の人手不足感は回復していません。
ですから、少し先の未来に備えた業務プロセスの標準化は喫緊の課題です。
近年、「ドライバーに選ばれる企業」であるべきという考えが荷主企業の間で広まってきています。
業務プロセスの標準化は働き手を守り、将来的には業界を守ることにもつながります。
商流情報と物流情報を組み合わせることで、現在、製造業と卸売業の間で行われている検品作業や無駄・無理を省く効果も期待できるでしょう。

 

物流課題をロジスティクスとして捉えるためにすべきことは。

コンセプトの作成に携わったロジスティクス総合調査委員会の名簿を見ても分かるように、専門分野が異なる人間が集まっています。
持続可能な仕組み作りのキーワードの一つはシェアリングエコノミーであり、これを産業界全体で進めていくには、さまざまな視点から俯瞰して物事を捉えられる人が必要です。
ロジスティクスは、残念ながら、日本の産業界に普及しているとは言い難い状況が続いてきました。
しかし、JILSが直近に行ったアンケート(「第3回新型コロナウイルスの感染拡大による物流・サプライチェーンへの影響」)では、「サプライチェーンにおいて取引先との調整によるサービスレベルの見直し(納品頻度や納品リードタイムの延長等)」を物流・ロジスティックス部門が主動したいという回答が一定数を占めました。
コロナ禍でエッセンシャルワークとしての物流の重要性が見直され、JILSの物流管理士認定講座に荷主企業からも受講者が増えているのも喜ばしいことです。
一時的なものではなく、またコスト面だけでない重要な経営課題、社会課題に向き合う戦略としてロジスティックスを捉えていただくのが、ロジスティックスコンセプトで描いたユートピアへの第一歩だと考えます。

 

2021年6月2日包装タイムズ引用